大黄河

【配信】【レーベル:SHIZEN】

 ニューエイジミュージック 名盤リマスター
 【2019 Remaster】

 ■NHK特集オリジナル・サウンド・トラック
  1986年作品

○○○○○○○○イメージ
オカリナ奏者・宗次郎の名を知らしめることになった名盤
中国の暴れ竜といわれる黄河をオカリナとシンセサイザーが見事に表現
中国の人達にとって、豊穣の源であり、洪水という最大の脅威であった黄河。その深い関わりを、宗次郎のオカリナが絶妙に表現する。流麗なメロディの底にあるものは、明らかに宗次郎の人間賛歌である。素朴な感動に時代はない。

NHKの日中共同取材番組として10ヵ月にわたって放送された大紀行ロマン「大黄河」。60人以上の音楽候補の中から"無名の新人"ながら大抜擢を受けたオカリナ奏者・宗次郎が、その期待にみごと答えた至極のサウンド・トラック、感動の名盤。
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曲目
 1.大黄河 オープニングテーマ (ダイコウガ)
   THEME OF THE GREAT YELLOW RIVER
 2.壮雲海~星宿海 (ソウウンカイ~セイシュクカイ)
   ANCIENT WORLD
 3.冬雪花 (トウセツカ)
   FROSTY FLOWER
 4.月霞草 (ゲッカソウ)
   MOON DROPS
 5.朧伝説 (オボロデンセツ)
   THE MYSTERY
 6.黄河源 (コウガゲン)
   WATER SPRING
 7.大黄河 (ダイコウガ)
   THE GREAT YELLOW RIVER
 8.童戯原 (ドウギゲン)
   HAPPY CHILD
 9.天清流 (テンセイリュウ)
   CRYSTAL STREAM
10.麗泉郷 (レイセンキョウ)
   THE RAINBOW STORY
11.陽春麓 (ヨウシュンロク)
   ON THE SUNNY SIDE
レコーディング・クレジット
Produced by TAKA NANRI
Associate Producer : Moko Nanri
Music published by Sound Design Music Inc.

Engineer : Tatsuo Nagami
Asistant Engineers : Shigetoshi Sugiyama, Takeshi Tanaka and Sadanobu Sato
Recorded at Sound Design Studio (Tokyo)
Special thanks to Isao Tamai and Yusai Sakai

宇題:酒井雄哉 ジャケット写真:林泰弘 解説カード写真:近藤信治
解説カード地図イラスト:伊藤清泉 アートディレクター 伊藤清彦

『大黄河』NHK取材制作スタッフ
>企画:
田川純三(NHKスペシャル番組部チーフディレクター)
>取材·構成:
小沢 爽(NHKスペシャル番組部チーフディレクター)
上野克二(報道局·取材センター特報部チーフディレクター)
後藤多聞(NHKスペシャル番組部チーフディレクター)
大野禎二:(番組制作局·産業科学部チーフディレクター)
鳥居雅之(番組制作局·学校教育部ディレクター)
杉浦正明(報道局·取材センター特報部ディレクター)
井上隆史(番組制作局·社会教養部ディレクター)
河野伸洋(報道局·取材センター特報部ディレクター)
吉川 研(放送総局·編成計画部·海外業務部チーフディレクター)
>撮影:
樋熊浩明(制作技術局·映像制作部チーフカメラマン)
倉橋清一(制作技術局·映像制作部チーフカメラマン)
斎藤秀夫(制作技術局·映像制作部チーフカメラマン)
高須和穂(制作技術局·映像制作部カメラマン)
山元昭信(制作技術局·映像制作部カメラマン)
北西英二(制作技術局·映像制作部カメラマン)
太田吉治(制作技術局·映像制作部カメラマン)
木村晃也(報道局·取材センター映像取材部チーフカメラマン)
市川隆久(報道局·取材センター映像取材部カメラマン)
沢辺 寛(報道局·取材センター映像取材部カメラマン)
菅野 栄(報道局·取材センター映像取材部カメラマン)
>編集:
苗田良治(報道局·取材センター特報部チーフディレクター)
>効果:
後藤伸行(制作業務局·効果部)
>技術:
本石武夫(制作技術局第二部)
>制作:
北山章之助(NHKスペシャル番組部チーフプロデューサー)
高橋弘殷(NHKスペシャル番組部チーフプロデューサー)

「シルクロード」から黄河へ 田川 純三
(オリジナル・ライナー・ノーツ)

 黄河は青海省の中部高原に発し、広大な中国大陸をつらぬいて、山東省の渤海に注ぐまで全長5464キロ。流域面積75万平方キロ。長さは日本列島一往復、面積は日本の1.5倍に匹敵する。
 日中共同「大黄河」取材班は、この全流域を走破する。世界ではじめての試みである。その間、車で近寄れない峻嶮の地も多い。そのため、筏や舟、馬やヤク(チベット牛)、ロバなどの動物、そのほかさまざまな手段を使って取材が進められる。全域の航空撮影も行われる。取材期間は1985年5月から86年10月まで、足掛け2年。走行距離は、地球の赤道の長さをこえる5万キロに達する。
 「大黄河」は「シルクロード」につぐ日中共同取材番組である。「シルクロード」を取材制作する間に、NHKと中国中央電視台(CCTV)の間には、強い絆が培われた。その成果に立って、日中両テレビ機関は、再び手を握り合ったのである。
 企画意図と内容のうえから言っても、「シルクロード」から「黄河」へは、いわば必然の流れであった。
 シルクロードは壮大な東西文化交流の道であったが、けっして平坦な道ではなかった。万年雪をいただき、「小頭痛、大頭痛」に悩まされるパミールの峻嶮があり、「黒い嵐」と呼ばれる烈しい風砂が吹き荒れるタクラマカン砂漠沿いの大流砂の道もある。この困難の道を人々が往来したのは、人々を渇仰させてやまない文化が東と西にあったにほかならない。
 その東の文化とは何か。たとえば七・八世紀にシルクロードとともに栄えた唐の都長安の繁栄・・それはとりもなおさず黄河文明をうけつぎ発展させた文化と富の集積であった。こうして、シルクロードをきわめた私たちが黄河の取材を志すのは、いわば当然の帰結であった。黄河をやらなければシルクロードを完結しないというわけである。
 だが「文明」というだけでは、現地取材によるドキュメンタリー番組として十分ではない。
 地図を開けば、黄河が幾重にも曲流していることがわかる。中国では「黄河九曲」という。「九」とは具体的数字を指すよりは、「数多い」ということの表現である。黄河は大小くりかえし曲流しているが、四川省の南端と内モンゴル自治区の北端の間の距離は、ほぼ日本の下関から青森のそれに匹敵する。一口に黄河流域といっても、気候も風土もさまざまなのである。さらに上流から下流まで、海抜4500メートルの高地湿原地帯にはじまって、山岳地帯あり、砂漠あり、黄土高原あり、平原あり、河口の大泥濘地帯ありと、千変万化の大自然が展開する。そして、そこに漢民族はもちろん、チベット族、モンゴル族などの少数民族が住み、それぞれ独自の歴史・文化・伝統・信仰をもって、たゆみない生活を営んでいる。
 こうして「大黄河」は、文明と歴史、千変万化の大自然、諸民族のくらしを混然一体としてとらえるドキュメンタリー番組となる。
 中国では、黄河は巨大な竜にたとえられてきた。むろん、しばしば氾濫をくりかえした「暴れ竜」でもあり、荒々しい河でもある。しかし、「黄河の水、天上より来る」と李白がうたったように、壮大なスケールをもつ世界であり、この大河への旅は悠久の旅である。そこに身をおく私たちは、心身ともにのびやかとなり、透明感をおぼえる。
 今、私たちは「大黄河」の音楽に宗次郎のオカリナの音を加えることができた。荒々しい世界を表現するには、さまざまな楽器があることを、私たちはすでに知っている。だが、黄河の透明感のある世界・・それを想いつづけている時、宗次郎のオカリナに出会ったのである。
 私が宗次郎にはじめて会った日、彼は無言のまま小さなバッグを開き、大小七つほどのオカリナを取り出して吹いた。大きさのちがうオカリナは、それぞれ異なった音程を奏でていた。それは「透明感」の世界はむろんであったが、同時に私たちがすでに撮影した黄河の多くの場面を想いおこさせてくれたのである。
 かつて、河南省の輝県から、「陶?」というものが二つ発掘された。遠く殷の時代のもので、五つの指孔をもつ土笛であった。今から3000年前の黄河文明は、今日のオカリナの元祖ともいうべきものをもっていたことになる。
 私たちは今、宗次郎の音楽を加えて、日中共同取材番組「大黄河」の悠久の旅を、実り豊かなものにしたいと願っている。

素朴な感動に時代はない 武藤 辰彦 (オリジナル・ライナー・ノーツ)

コンピューター音楽全盛時代である。とくにロック、フュージョンに関しては、アコースティックな楽器だけのコンサートを見つけるのは至難の技になった。
 レコードもしかり。例えば、カシオペアのキーボード奏者、向谷実が昨年出したLP「ミノルランド」のように、<これが一人多重録音?>と疑いたくなるような豊かな表情を持つ作品がどんどん増えている。技術革新が、音楽の常識を変えたことは間違いないようだ。
 だが、人間はぜいたくな動物だ。擬似音が本物に近づけば近づくほど、逆に本物を強く求めていく。そこに、オカリナ奏者、宗次郎(そうじろう)が登場する真の意味があった---。

 本名・野村宗次郎。昭和29年群馬県生まれ。55年から栃木県茂木町の廃校になった小学校舎に、妻、犬4匹、猫1匹と住む。イタリア語で<ガチョウの子>を意味するオカリナを手製の窯で焼きながら、水戸市内で時折、小コンサートを開く。専門の音楽教育は受けていないが、絶対音感の持ち主・・・。
 そんな簡単なプロフィールを頭に叩き込んで、私は昨秋、茂木町に向かった。もちろん、この時点でSHIZENレーベルとの契約は済み、ゲフィンを通じて彼の処女作「グローリー・幸福」が、アメリカで発売されることはわかっていた。だが、私の中では、画期的な米大陸進出話よりも、<偏屈ぶり(?)を見てみたい>という好奇心のほうが強かった。
 予想は半ば当たり、外れた。無造作に後ろで束ねた長髪と濃い口ひげ。隠遁者を思わせる容貌の中で、少年のような瞳の光がさわやかだった。何よりも、那珂川の河原で耳にしたオカリナの音色にしびれた。
 高く澄んだ音が、川霧に煙る川面をゆったりとはったあと、晩秋の狐空へ溶け込んでいく。暖かくて、優しくて、哀しい。単音にもかかわらず、多彩な「顔」をのぞかせる。自然のエコーも独演会を盛り立てた。
 <これこそ、本物の音だ>。思わずうなり、不覚にも涙ぐんでしまった。
 自宅は標高400メートルの山中にあった。清冽な空気と水に満ちている。夜ともなれば、風のささやきと葉ずれが友となる。静寂の訪れとともに、宗次郎は旧理科室の作業室にこもって、岐阜・多治見から取り寄せた土を黙々とこねる。あるいは旧図書室の居間で、曲作りの構想を練る。自然との対話が、飽きることなく繰り返されているのだ。
 オカリナは二ヶ月に一回、平均100個を焼くという。窯には13時間入れておくが、演奏会で使えるものとなると、このうちわずか5・6個。音質の追求の前には、生産性は無視される。
 「土にあこがれて、北海道の酪農家で一冬過ごしたこともあるんです。いまでも、畑仕事をしたいと痛烈に思っています。」「音楽家としては、レコードを出せない悲哀をずっと味わってきました。でも、いざ実現したとなると、今度はここの静かな生活が崩れるのを心配しているんです。」
 「半陶半音」の自然人がポツリ吐き出す言葉に、数時間前に聴いたオカリナの響きが重なった。

 その宗次郎が、NHKの日中共同取材番組「大黄河」の音楽を担当することになった。この4月から10月にわたって放送される大紀行ロマン。影響力は測り知れないものがあり、音楽候補には、60人以上の名が挙がったという。だが、NHKはあえて「無名の新人」となじみの薄い楽器を選んだ。その英断に敬意を表したい。
 宗次郎は期待にみごと答えたと言っていいだろう。このサウンド・トラック盤に収録されたテーマ曲が、すべてを物語っている。中国の人たちにとって、豊穣の源であり、洪水という最大の脅威であった黄河。その深い関わりを、オカリナが絶妙に表現する。シンセサイザーが同伴するものの、あくまで「支流」にすぎない。
 流麗なメロディの底にあるものは、明らかに宗次郎の人間賛歌だと強く感じた。そして、これは単なる環境音楽ではなく、自らの体験、信条を投影した「心象音楽」とよぶべきだ、とも。

 人間と自然と技術革新と。宗次郎の手で、壮大な問いかけが、いま始まろうとしている。素朴な感動に、時代はない。

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